2012年2月1日

A Tale of Two Dwarves (2)


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A Tale of Two Dwarves
(1) (2) (3)

原著:Perterb
http://dfstories.com/a-tale-of-two-dwarves

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(2)

ある年の春のこと、Bekemlogemへの移民の中にガラス吹き職人のNishがいた。
そして到着早々彼は次のような告知を受けた。
「この土地ではガラスのようなファンシーグッズへの需要は小さいし、
正直なドワーフは石で満足できるし、そもそもここにはガラスを作る為の砂がないし。
というわけでこのクロスボウを持って軍隊に入るように」

先に言った通り、沼地にはゴブリンが居なかった。
なのでクロスボウはあっても撃ち出すボルトは作られていなかったし、
ボルトがあったとしても撃つ相手がいなかった。

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Bekemlogemでの軍役はおおむね、外での歩哨、汗かき、骨折りの繰り返しだった。
時には他の隊員が退屈しのぎにレスリングをしようと誘ってくることもあったが、
それはNishの気分を晴らすよりもむしろ逆に働いた。
ある隊員がレスリングは裸でしようと主張していたからだ。
いわく「制服が皺にならないようにね」らしい。

だからNishはよく湿度の高い沼地で歩哨に立った。
そして汗を流しながらビールのことを考えていた。

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彼はビールのことを考えた。
ダークビール、ライトビール、泡たっぷりのビール、気の抜けたビール、
エール、ラガー、ポーター、スタウト。

彼は他のものについても考えた。
ビアマグ、ビアシュタイン、ビアタップ、ビア樽、ビアマグ。
ビールがなみなみと注がれたトールグラス。
石のマグでしこたま飲んだあと投げて遊べるコースター。ビアマグを置くテーブル。
テーブルを傷つけないように、ビアマグの裏には何かつけておく必要がある。
亀の甲羅をつけるのが良さそうだ。

彼は寒い日のビールのことを考えた。
晴れた日の、雨の日の、ねばつく暑さの日のビールのことを考えた。
もしビアマグが手から滑ったら?ビールがこぼれてしまうだろう。
そんなことが起きないように、しっかりした取っ手が必要だ。
取っ手にギザギザをつけようか?いや、そんなのはつまらない。
何か彫刻をつけるべきだ。それも手触りのよい彫刻を。
骨がいい。骨で取っ手のカバーを作ろう。
もちろん、取っ手がマグ本体の彫刻を隠してはいけない。
そしてマグには最初の要塞が作られた時の画を彫ろう。

そこまで考えたとき彼は、持っていたクロスボウを無意識のうちに手放して、
ゆっくりと近くの野外工房へと歩き出した。

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「おい、配置に戻れ!」
隊長であるMomuzが怒鳴ったが、
「クソ食らえ」
そう言ってNishは石細工の工房に入っていき、そこにいた親方の顔面に肘撃ちを叩き込み、
ぶっ倒れた石工の両足を掴んで放りだし、工房を占領した。
Momuzは頭を抱えて唸った。
「”触れられ”ちまったのか。こりゃあ血を見るぞ……。」

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だが血を見ることにはならなかった。
Nishはこの世のものとは思えぬ出来のビアマグを作り上げた。
杖を掲げもつドワーフが彫り込まれたそれは
"The Undignified Worries (杞憂)"と名付けられた。
これはまったくふさわしい名前と言うほかない。
そしてNishはこの時から死ぬまで、これ以外のマグには口をつけなかった。

素晴らしいマグを披露したことでNishは軍隊から名誉除隊となり、
専用の工房と俸給を与えられ、基本的に残りの人生で何をしても良いことになった。
この”何をしても”はつまるところ、工房での仕事の時間以外は
彼の自慢のマグからビールを飲むということだった。

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さて、Nishの場合は確かに血を見ることはならなかったが、
Momuzの心配は的外れなものではなかった。

空想、思いつきの面白いところは、およそ非現実的な物でも考えられるところだ。
木星まで飛んでいく風船ハウスとか、ちくわで出来た自転車だとか、
Minnie the Moocherから引用するなら、プラチナの車輪をはめたダイアモンドの車だとか。

だが”触れられた”ドワーフは最早「非現実的だ」とは考えられない。
彼は車を作るのに必要なプラチナとダイアモンドを探しに行くのだ。
もし、プラチナとダイアモンドを見つけられなかったら?
誰かが死ぬことになる。

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時としてドワーフは発狂し、その辺の武器を掴んで目についた者に襲いかかることがある。
これはよくあるケースで、Momuzが恐れたのもこれだった。
Momuzは隊長であり、最初に殺される可能性が高かったのだ。
狂ったドワーフは自身が殺される前に平均して4~5人を殺害する。
死を恐れない者に殺しは容易い。

しかし奇妙なことに、狂乱はドワーフにとってまだましなケースとされる。

(3)につづく
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訳注
※ドワーフは全員アル中。
酒の醸造をサボって水しか飲めない事態になると
これ以上水を飲むくらいなら脱水死するわと水を口にしなくなって本当に死ぬ。


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