2013年1月12日

The Beast

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The Beast

From Threetoe's StoriesThreetoe (January 22, 2007)
http://www.bay12games.com/dwarves/story/tt_beast.html

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冷たく湿った森。高い枝の隙間からまばらな光が差し込んでいる。
Caltronは何か生き残る助けになる道具を求めてポケットを探りながら、
自分を置きざりにしていった移住者たちを呪っていた。
「俺はこの土地で一番のトラッカーだ」と言い放ったのも事実なら、
この一日のあいだに連中の荷馬車を完全に見失ったのも事実だった。

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あの夜、移住者たちは若いトラッカーをわざと酔っ払わせた。
そして翌朝になって彼が目覚めた時、周りには誰も居なくなっていた。
彼のポケットは空になっていた。残っていたのはブーツだけだった。
ブーツは切り株の横に捨てられていて、連中が試しに履いてみたのは明らかだった。
Caltronのブーツが小さくて合わないから捨てていったのだ。

とぼとぼ歩く彼のブーツに、松の葉まじりの泥が跳ねてかかる。
彼の技能は自分で思っていたほどではなかったが、
荷馬車の残した深いわだちを見つけることは出来た。
夜中には移住者たちがキャンプを張る。そうしたら荷物を取り戻せるかもしれない。
彼の燃える肺から押し出された息が、冷たい空気のなかで曇ってみえた。
わだちは木の密集した部分を避けて川に向かい、、
そのまま馬車が渡れる浅瀬を見つけるまで川沿いに進んでいた。
Caltronはそこで一度休憩をとることにした。
手ですくって飲んだ水は凍るように冷たかった。
彼は身震いし、立ち上がってわだちの追跡を再開した。

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Caltronの顔に笑みがうかんだ。
足元の泥のなかで、荷馬車のわだちの上に新しいわだちが交叉している。
彼らはぐるっと回ってしまったのだ。
わだちの続く先から、誰かの罵り声が聞こえてきた。
彼は満足し、踵を返して木々の中に引き返した。
Caltronは微笑みながら腕を組んで木にもたれかかり、そのまま地面までずり落ちた。
時間が過ぎていった。
小動物たちが頭上の枝を走り、遠くからは鳥の歌声が聞こえてきた。
雲が割れ、森の土に光が降り注いだ。
周囲に茂った鮮やかなシダを、腐った倒木に生えた色とりどりのキノコを彼は眺めていた。
不安だった心がしばしのあいだ安らぎ、彼は夢の世界へと入っていった。

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彼ははっと目を覚ました。森が墓場のような静寂につつまれていた。
茂みの向こうに、大きく、恐ろしい目が見えた。
下生えの中から獣が姿を現した。
牙から唾液を滴らせながら、それはCaltronに近づいてきた。
彼は飛び上がり、腕を振って力の限り叫んだ。
獣の背に、輝く縞模様の毛並みが見えた。
Caltronは木々のほうへ後ずさり、獣が見えなくなると全力で逃げ出した。

彼は取り乱していたが、必死で理性を失うまいとしていた。
あの獣から身を守るために使える唯一のものだから。
これまで辿ってきた荷馬車のわだちを逆に走り戻った。
この道を戻れば森から出られる。だが、走り続けたとしても数日かかるだろう。
彼のブーツは泥に沈み、一歩一歩が苦しくなってきた。

川まで戻ってきた彼は一度止まり、また水を飲んだ。
水面から顔を上げると、またあの目が見えた。
Caltronは河に手を突っ込んで石を拾い、目に向かって投げつけた。
目はまばたきし、見えなくなった。

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獣の腹は飢えに焼かれるようだった。
彼は前足を舐め、石が当たって痛む鼻にそっと触れた。
森の鹿を追うには年をとりすぎてしまったし、川の魚は数が減ってしまっていた。
新しい獲物のことを考えて涎が出てきた。
鹿は速い、だがあれは遅い。いきなり大きくなった時には驚いたが、
よく見れば馬鹿な鳥のように二本足で走るだけに過ぎない。
楽勝な上に大きい獲物だ。
鼻がつんと痛んだ。だが、危険だ。
慎重にやるにこしたことはない。

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男が夜のためキャンプを張る周囲を、獣がぐるぐると回っていた。
Caltronは獣がそこに居るのに気づき、油断せず、茂みに背中を見せないようにしていた。
暗くなるにつれ、獣は動きを速めた。
男が疲れたその瞬間、獣は襲いかかるだろう。
ふと異臭が漂ってきた。
小さな火が焚かれている。
獣はのけぞり、後ろ足で立ち上がった。

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火。かつて住んでいた森から彼を追い払ったものが火だった。
火は彼の伴侶と子供たちを飲み込んだ。そして新しい森を求めて何日もさまようことになった。
獣が知っている火とはそういうものだった。

獣はキャンプから離れたが、数時間のあと、空腹のために戻ってきた。
火は大きくなっていなかった。森を飲み込んではいなかった。
相変わらずそこにあったが、それよりも人間の肉の匂いに抗えなかった。
獣は忍び寄り、Caltronが背中を向けた瞬間を狙って襲いかかった。
だが老いた体が彼を裏切り、動きが鈍ってしまった。
Caltronは向き直り、火のついた枝を獣の顔めがけて投げつけた。
人間の企みに気づいた獣はすぐにそれを避けた。
いくつもの火に、恐怖が獣の全身を走った。
だが飢えもまた狂ったように責め立てていた。
男が枝を尖らせた槍を突き出した。獣はそれを爪で打ち払ったが傷を負った。
切りつけられた獣は叫びを上げ、森へと駆け戻った。

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天候が悪化していく中、獣はキャンプの周りを回っていた。
Caltronは凍え、追い詰められていた。
次の早朝、獣は自身の隠れ場所にCaltronが向かってくるのを見ていた。
立ち止まった男は、膝をついて槍を頭上に掲げた。
意味が分からないままの獣に向かって彼は話しかけた。
そして彼がキャンプを去ったので、獣も隠れたままついていった。

彼らは河を渡り、荷馬車のわだちが交叉していた場所まで戻ってきた。
そこで足を止めたCaltronは獣の居る方向に向き直り、
手に持った槍でわだちを指して、獣に話しかけた。
獣はそれを理解できなかったが、その光景には見覚えがあった。
追い詰められた獲物はしばしば理性を失うのだ。
その時、獣の鼻が何かを嗅ぎとった。もっとたくさんの獲物がいる。
獣はCaltronを置き去りにして、匂いのもとへと忍び寄っていった。

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河からそう遠くない場所で荷馬車が壊れていた。
そこでは車輪の修理にしくじった移住者たちが酒を飲んでいた。
その中で一番の阿呆、太ったひげの男がCaltronを呪っていた。
彼はCaltronを殺しておくべきだった。

男が投げた瓶が木にあたって砕け、それに怯えた子供たちを彼の妻があやした。
茂みの奥から低いうなり声が響いてきた。
太った男はうなりかえし、笑いながらナイフを抜いた。
千鳥足で茂みに向かっていく彼を見て、妻はやめるように頼んだが、
オレンジと黒の毛皮が光り、一瞬のうちに彼の命を断った。

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Caltronは再び茂みに向かって声をかけ、
獣にスパーリングの礼をいい、森から歩き去っていった。

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The Beast 完

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分析(Analysis)

クリーチャー
・飢えた獣の牙から垂れる唾液(あるいは毒)が見える
・種族ごとに異なる発声パターンがあり、
 プレイヤーはそれと知識を照らし合わせることでクリーチャーを識別出来る。
 それらの音声は受け手ごとに異なる反応を引き起こしうる。
・大きな音を立てたり、姿を大きく見せることで準知的生物をおどかす
・種族ごとに負傷への反応が異なる
 またグルーミングなど傷を手入れする行動をもちうる
・加齢による能力の衰え
・傷を負った際に用心深くなる
・親が子を気にかける
・うなる
・人は馬鹿な行いをする他者を止めようとする

アイテム
・人によるサイズの差異がグラデーション状で、
 サイズが合わないものを身に着けると不快を生じる

環境
・日光が植生によってカットされる
・木々のあるところ(特に伐採が行われた場所)には切り株があり、
 植物性のごみがあったり、茸や苔、蔦が茂る。
・汚い場所では靴が汚れる
・地面の状態によっては馬車のわだちが長く残る
・寒いと放出された息が見える
・寒い場所での呼吸で肺が痛む
・寒さで体が震える
・馬車などの装備は植生が濃い場所を通れない
・ワールドマップにおける川の自然な湾曲
・流水の速さは変化しうる
・不安定な地面では部分的な沈下が発生し、移動を妨げる
・解決不能な問題にぶつかったとき、酒に走ることがある

戦闘
・方向性を持って走るとき、「戻る方向に走る」という選択肢がいる
・狩猟型クリーチャーは逃げる奴を追う傾向がある
・クリーチャーは襲撃(アンブッシュ)の前に身を隠して機をうかがう事がある

伝承(Legends)
・クリーチャーの過去に関与する人、物、場所が感情を引き起こすことがある
 例えばトラウマに関与する出来事が恐怖を引き起こす
・クリーチャーは難しい獲物を諦めて他にいくことがある

シナリオ
・信用を悪用して誰かを泥酔させ、利益を得ようとする

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